心の傷を癒すということ――大災害精神医療の臨床報告

【増補改訂版】心の傷を癒すということ――大災害精神医療の臨床報告

3月11日が近い。
14年前の2011年(平成23年)、確かに私たちは津波の恐怖を目の当たりにした。
昨年の元旦は、能登が被災した。
1995年(平成7年)1月17日は阪神淡路大震災だった。
あれから30年。日本は災害列島だ。

その阪神淡路大震災で、自身も被災しながら、
被災者の心のケアに当たった若き精神科医がいた。
手探りの診療、ボランティア医師との連携、寄り添う医療、
その記録が淡々とつづられた名著が「心の傷を癒すということ」であり、
その後、増補改訂版が発刊されている。

精神科医も人間である。
ただでさえメンタルを維持するのに大変なところ、
患者が、また回復期にある患者が、
さらに、被災しながら勤務しなければならない医療従事者が
皆、メンタルを保つ必要があり、その中核を担い、かつ、
克明な記録を残す。

それまで、あまり認知されていなかった、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、
阪神淡路大震災、知られるようになった。
このPTSDは、命の安全が脅かされるような出来事(戦争、天災、事故、犯罪、虐待など)によって
強い精神的衝撃を受けることが原因で、
著しい苦痛や、生活機能の障害をもたらしているストレス障害であるが、
安医師の記録が、世に知らしめるきっかけを作ったといっても過言ではない。

「心の傷を癒すということ」、安克昌医師の魂の記録である著書は、
その後の被災地における、メンタルケアに大きく役立っている。

残念なことに、安医師は、
がんにより、2000年に39歳の若さでこの世を去っている。
今、御存命なら、60代前半である。
克明な記録を綴り、刊行した同書により、
1996年12月、「サントリー学芸賞」受賞した。
彼の死は、震災から5年後のことである。

その仕事における功績は、医師仲間からも評価が高い。
彼の生涯は映画化もされ、また今年、2025年1月、
NHKEテレ『100分de名著』にて
『心の傷を癒すということ』がテキストに選定された。

人は物理的な死を迎えても、
人々が記憶している限り、生きている。
その偉業を語り継ぐ人がいる限り、生きた証は力強い華となり、咲き続ける。

こうした意味で、語り部の存在が大きいと言えよう。
故人の偉業を正しく理解し、正しく語り継ぐ。
没後25年の時を経ても、彼の人生は色あせることを知らない。
大きな地震が近未来に想定されている今、
メンタルケアの分野で、彼の業績が、
ますますクローズアップされていくことだろう。

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