陥没した道路における事故…中京法学巻1・2号(年)
長尾英彦先生の論文、
2013年と、少々古いが、陥没した道路における事故に係る判例研究がある。
道路を通行していて、その道路が陥没した場合に、
誰がその責任を負うのか…というお題である。
この論文を熟読玩味していただきたい。
今回の埼玉県八潮の事件をきっかけに、
道路管理者と、下水道の管理者は、真摯に責任の所在を考えなければならない。
津地方裁判所四日市支部が、平成年3月29日判決した論文の事案は、
本ケースに酷似している。
津地方裁判所の事案は、原動機付自転車で走行していた原告は幸い、
陥没した道路を走ってしまったものの、けがで済んだ。
しかし、今回の場合は、事故発生から11日。
最悪のケースが想定される。
損害の多寡で、賠償責任を決するものではなく、一般論として
「国家賠償法2条1項にいう公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、
営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい [最1小判昭45.
8.20]、当該営造物が通常有すべき安全性を欠いているか否かの判断は、
当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を考慮
して具体的個別的に判断すべきである [最3小判昭53.7.4]」。
道路は、「国家賠償法2条1項にいう公の営造物」である。
条文を確認しておこう。
「第2条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。」
ちなみに、「瑕疵」とは、
きず、欠点、法的に人の行為、権利または物に何らかの欠陥・欠点のあること。
津地方裁判所の事案は、平たく言えば、道路の陥没があつた場合に、
すぐに対応ができるよう
「道路管理者として十分な連絡態勢は執られていた」
だから、管理者として、賠償責任を負わない…というものだ。
しかし、現実問題とて、事故が起き、ドライバーが損害を負っている。
陥没している道路に、応急処置として看板を設置し、
「道路陥没・通行注意」等との注意喚起がされていたにもかかわらず、
わざわざその看板をどかして通行し、事故に遭遇したならいざ知らず、
普通に道路を通行していた場合にまで、
道路管理者の責任を回避するのはいかがなものか。
要は結果の予見ができたかできなかったかの問題である。
予見可能であれば、その時点で、相当な回避措置をとらなければならない。
当然のことながら、結果の招来をふまえ、
公営物の経年劣化を、予見に含めなければ十分な管理と言えない。
つまり、水道管の耐用年数は、40年程度なのだから、少なくとも、
耐用年数の期間満了前に敷設しなおすことがマストである。
過日も、このブロクで触れたが、
今、全国で陥没事故が多発している。
それが、高度成長期に作られたインフラの経年劣化による
水道管等の破損によるものがほとんどであることが指摘されている。
国土交通省水管理・国土保全局 上下水道審議官グループが、
令和6年4月22日(月)に行った
令和6年度全国水道主管課長会議で配布された資料を注目したい。
その個所は、56頁の「管路経年化率・管路更新率」である。
このグラフが意味していることは、古くなった水道管で、
耐用年数を超えたものが、右肩上がりで増えているという実態。
反比例して、補修している割合は減っている。
「管路経年化率は22.1%※まで上昇、管路更新率は0.64%まで低下(令和3年度)」
と、研修会の資料で示されているのだから、国も全国水道主管課長も、この事実をしっかり認識している。
現在は、令和7年なので、その率は調査時よりさらに高まっているだろう。
これを受けて、政府の対策が一向に見えてこない。
恐ろしいことに、これは水道管だけのことであり、
橋も、トンネルも、高速道路も、ありとあらゆる公造物が経年劣化している。
そうすると、管理者らは、かなりのハイスピードで補修をしなければ、
安全配慮義務を怠ったことになる。
高い確率で事故が発生することを認識しながら、
補修を怠ったということで管理責任を問われることになる。
「予算制約論」 は免責理由にはならない。
目に見えないインフラの修繕は、地味で予算もつけにくいかもしれない。
しかし、今、待ったなしで地中の劣化が始まっている。
私たち国民は日常生活において、
いつ自分の身に降りかかってくるかわからない禍について、
じっくり考える時間を持とう。
要は政治の問題である。
